大判例

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福岡高等裁判所 昭和26年(ネ)172号 判決

被控訴人両名間に昭和二十年十二月三日別紙<省略>第一物件目録記載の不動産につき、同月四日同第二、第三目録記載の不動産につきなされた各売買は無効であることを確認する。

被控訴人ヒロノは被控訴人シノに対し右第一目録記載の不動産につき島原区裁判所小浜出張所昭和二十年十二月三日受附第七四九号を以て、同第二目録記載の不動産につき同出張所同月四日受附第七五七号を以て、同第三目録記載の不動産につき同出張所同日受附第七五九号を以てなされた売買に因る所有権取得登記の各抹消登記手続をしなければならない。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において控訴人は本件物件の所有者でないから本訴を提起する権利がないと述べた外いずれも原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

被控訴人シノが控訴人を養子となし両者間に昭和七年四月四日養子縁組が成立した事実及び別紙第一乃至第三物件目録記載の不動産につき長崎県知事の許可を経た上控訴人主張の各日時その主張のような売買に因る所有権取得登記手続がなされた事実は、いずれも当事者間に争がない。

よつて本件売買が控訴人主張のように虚偽仮装のものであるかどうかについて検討するのに、成立に争のない甲第七号証乃至同第十号証、同第十二、十三号証、同第十四号証の一、二、三、同第十五号証を綜合すると控訴人の妻マツヱはかねてから被控訴人シノと折合が悪く、そのため家出して実家に帰つたことも一再に止らなかつたが、昭和十九年の初頃夫たる控訴人から農事についてたしなめられたのを不快に思つて実家に帰つた。そこで控訴人は同被控訴人に諮つた結果マツヱから今後再び実家に帰らないという証文を差入れさせることを条件として同被控訴人の諒解を得た上、同年十一月頃マツヱを実家から連れ戻した。ところがマツヱは右証文を差入れることを肯んぜず、控訴人も亦強いてマツヱにこれを差入れさせなかつたので、同被控訴人の憤懣を買いその頃から同被控訴人と控訴人との折合も悪くなつた。そのため同被控訴人はマツヱが復帰して間もなく控訴人の実兄山崎兼十の妻ツギヨに対し、右の憤懣を漏らし、且つ「平素控訴人が養家の財産を自由にしているからそのことを実家の父に伝えて呉れ」と語つたので、その日控訴人の実兄兼十及び実母ユキはその間の事情を糺すべく相前後して同被控訴人方に赴いたが、その際同被控訴人の右言辞を不快に思つていた兼十等は同被控訴人等の面前で「何の見込があつてここにいるのか帰つて来い」等申し向けて控訴人に実家に立ち帰るよう促し、同夜控訴人は着換さえ持たずに実家に赴いたが耳疾の治療をした等のためそのまま約二ケ月間実家に滞在した。然るにその間マツヱは同被控訴人と喧嘩して再び実家に帰り、同被控訴人は控訴人が何日までも実家にいるので、再び控訴人を養家に入れる意思がないことを他人に漏らし、且つ控訴人が耕作していた養家の田畑の一部を他人に小作させたことを聞いて、控訴人は昭和二十年一月頃養家に復帰した。控訴人が養家に戻るや、被控訴人シノは親戚を集めて控訴人を離縁する協議をなし就寝中の控訴人に出て行けと迫り、養親子間の折合は益々悪化し、口論の絶え間なく、平素は殆んど互に言葉も交さず炊飯も別々にし、久しくかような状態が続いた。その間同被控訴人は家庭が面白くないため親戚知己等を転々寄食することが屡々であつたが、ついに自己所有財産の約二分の一に相当する本件不動産全部を被控訴人ヒロノに売却したとして、前認定のようにこれが所有権移転登記をなした上、その田畑を被控訴人ヒロノに耕作させ、昭和二十一年三月頃家財道具を殆んど残さず持出して亡夫の兄訴外井上大吉方に転居した上、控訴人が現に居住しているのに拘らず本件家屋に被控訴人ヒロノ一家を入居せしめた事実を認め得るのみでなく、成立に争のない甲第二、三号証によると、被控訴人シノが本件係争農地を除く爾余の所有農地全部についても亦、これを被控訴人ヒロノに売渡したとして、昭和二十年十二月十五日附で長崎県知事宛にこれが許可申請書を居村役場に提出した事実のあることが認められ、これ等諸般の事実の外、右事実から知ることのできるように、農家の生命ともいうべき全農地は勿論、自己の起居する家屋敷までも手離してしもうが如きことは、余程差し迫つた特別の事情のない限り、世上殆んどあり得ないところであるのに本件においては斯様な特別の事情の存することにつき何等の証拠もないこと等を彼是参酌して考え合わせると、本件売買は被控訴人シノが控訴人を追出す目的で、被控訴人ヒロノと通謀して仮装した無効のものであると判定するのが相当であつて、右認定を覆すに足る何等の反証も存在しない。そうして控訴人が被控訴人シノの養子であることは冒頭認定の通りであるから、控訴人は同被控訴人の推定相続人として将来同被控訴人の死亡によりその権利義務を包括承継すべき期待権を有しており、しかもこの権利は被控訴人等の本件仮装売買並びにこれを原因とする所有権取得登記により現に侵害されつつあるものというべきであるから、控訴人は本件不動産売買の無効確認を求める利益を有すると同時に、自己の被控訴人シノに対して有する右期待権侵害排除請求権に基き、同被控訴人に代位して、同被控訴人が被控訴人ヒロノに対して有する本件不動産所有権取得登記の抹消登記手続請求権を行使することができるものといわなければならない。

よつて被控訴人等に対し本件売買の無効確認を求めると同時に、被控訴人ヒロノに対し本件所有権取得登記の抹消登記手続を求める本訴請求は全部正当としてこれを認容すべく、右と趣旨を異にする原判決は失当であつて控訴は理由があるから、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条、第九十三条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小野謙次郎 竹下利之右衛門 中園原一)

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